すずの木

誰でもお気に入りのお店ってのはあるし、何だか落ち着くお店ってのもあることだろう。一杯やって、ホッと一息♪そんな時間も大切である。
私の住む埼玉県は、ご存じの通り海がない。それでも、おいしい魚を食べさせてくれるお店はあるし、魚がなくとも酒揃いのいい店は探せばあるものである。
「すずの木」という小さな飲み屋さん。私の隠れ屋である。まず顔を出さないマスターに、何処にでもいそうなオバチャンママ、飲み物を作ったり運んだりの綺麗なお姉さん。この三人だけで切盛りされる「すずの木」には、いつも静かな空気が流れて、時として私が仲間と連れだって飲み、少しでも騒ごうモノなら、一人二人と客が帰っていってしまう。
とにかくたくさんの焼酎や日本酒の瓶に囲まれ、チィとばかりのツマミに時を過ごすその時間。一人で行けば私にとっては創作の時間ともなる。
ぷらりを始めた時もここで一人お湯割りの茶碗を傾けた。それから約1年弱、たくさんの出会いがあって、たくさんの人に素人な私の絵を見ていただいた。見ていただくばかりか、お金を払って着ていただいている。何ともありがたいものだ。どんな路線が自分らしい絵なんだろう?そんなこともここで考えた。最初に書いたモノは何だっただろう。最初に自分が描きたかった絵はどんなだっただろう。自分で自分に問いかけることを続けると、パッとトンネルを抜けることがある。きっとそんな瞬間をたくさん味わいたくて、ぷらりを始めたんだと思う。昨日のこと、私の描いた鮃に眼を輝かせてくれるアングラーに出会った。この絵がTシャツになって、その人の「いいじゃん!いいじゃん!」の声が響いたとき、またここで酒を呑もうと思う。
「すずの木」がどこにあるかは教えられない。だって、私の隠れ屋だから…